2017年12月14日木曜日

FMエアチェックの楽しみ方も時代と共にこんなに変わった


 『FMエアチェック? なんだそれ』と言われかねないくらい、今や死語に近いFM放送の楽しみ方を続けています。DJのおしゃべりが多い民放の番組はあまり聞きませんが、NHK FMのクラシックやジャズの番組と東京FMのジェットストリームは30年以上も聴き続けています。デジタル音源全盛の時代に、今や数少ないアナログ音源として生き残っているFM放送ですが、ちゃんとした受信環境と優れたチューナーがあれば、驚くような音を聞かせてくれます。時代とともに記録メディアも変わりましたが、お気に入りの番組を高音質で録音し、好きな時に聴くという楽しみはやめられません。


FM放送は変わらないが録音機器はどんどん変わる


 FM放送の受信に長年活躍してきたのがソニーのシンセサイザーチューナーST-S333ESXIIです。30年近くも前に購入し、5年ほど前に経年劣化で受信がうまくできなくなるまで、実に24年以上もFMエアチェックの主要機器となってくれました。故障後に買い換えたAccuphaseのT-1100は、当時市販されていたFMチューナーの最高峰と考えられていたフルデジタル処理の機器です。大変高価でしたが、実に安定した良い音を聞かせてくれます。FMチューナーは30年の間に一度しか変わっていませんが、それを録音する機器は頻繁に変わりました。

FMエアチェックで使用する機器の変遷

・当初はカセットデッキを使用


 FMエアチェックを始めた30年前は、オーディオ用の記録メディアといえば磁気テープが全盛でした。最高の音質を求めるならば、その中でも2トラ38と呼ばれる大型のオープンリールデッキがありましたが、高価で手が出ません。カセットテープを使用するデッキが一般的な時代でした。カセットテープの能力ではFM放送の品質を落とさずに記録することは困難で、生で聴くよりも質が落ちるのが残念でなりませんでした。この時代には、より良い録音品質を求めて、何台かのカセットデッキを買い換えながらFMエアチェックを楽しんでいました。記録メディアとしてカセットテープを利用することの良いところは、当時流行っていたウォークマンを持っていれば、録音されたものをそのまま屋外でも楽しめたことです。

・デジタルで磁気テープに記録できるDATを導入


 その後CDなどのデジタルメディアも普及し始め、手軽に良い音を楽しめるデジタル方式の良さが認められるようになっていました。磁気テープにデジタルで音楽を録音できる、DATがソニーから発売されると直ぐに購入。FMチューナーから出てくる音が、劣化を感じずに記録・再生できることに大変驚いたものです。

デジタルで磁気テープに録音できるSONY DTC-300ES

録音時に一旦ADCでデジタル変換されますので、そこでの品質はどうしようもないのですが、再生時に好みの音を作るために別のDACに接続するなんていう楽しみ方もできるような時代を迎えました。かなりの期間、このシステムでFMエアチェックを楽しんできましたが、前のカセットテープ同様、磁気テープであることの弱点も経験しました。デッキが老朽化してくると磁気テープを扱う機械系に不具合が多くなります。テープが機械内部に絡まってしまい、大切な録音済みテープをダメにしてしまう事態が度々発生するようになりました。最後はテープを正しくローディングできなくなり、DATデッキは廃棄処分しました。

DAT用の磁気テープ

・扱いの簡単なMDだが音楽データは圧縮されてしまう


 DATデッキの次に録音機器として加わったのがMDです。ランダムアクセスが可能な小型の光磁気ディスクがケースに収まっていて、扱いは大変楽になりました。ただし、記録容量がDATやCDなどに比べて小さく、データがATRAC方式で圧縮されます。まあ、圧縮による音の劣化などを判別できるような高音質なオーディオシステムではありませんでしたので、手軽に扱えるという点が大変気に入りました。

取り扱いが非常に簡単になったMD

・T-1100の音をデジタルのまま記録できるSDメモリーレコーダー


 その後、SONYのFMチューナーが故障し、AccuphaseのT-1100を後継機として入手しました。このT-1100は受信した電波を直ぐにデジタル変換した後、復調まで全てデジタルで処理しています。アナログの出力端子以外に、内部で復調されたままのデジタル信号が取り出せる端子が用意されています。

アナログ出力端子の横に同軸デジタル出力端子があるT-1100

この端子には24ビット・48KHzのステレオPCM音声が出ていますので、これをデジタル録音可能な機器に直接入力すれば、最も劣化の少ないFMエアチェックが可能になります。そのために選んだのが、ソリッドステートステレオオーディオレコーダーのTASCAM SS-R100です。記録メディアとしてSDカード・CFカード・USBメモリーが使用できます。

ソリッドステートステレオオーディオレコーダーTASCAM SS-R100(真ん中の機器)

三種類のメモリーが利用可能ですが、普段はマイクロSDカードにアダプターをつけて利用しています。大容量化も進み、圧縮なしの16ビット・48KHzサンプリングWAVフォーマットで記録しても、32GBのSDカード一枚で50時間近く録音できます。磁気テープやMDなどで気にしていた長時間のクラシック生演奏なども安心して録音可能になりました。

大容量化が進んで、長時間の記録も可能なSDカード

さらに、SDカードを使用するメモリプレイヤーを購入すれば、録音したカードをそのまま持ち出して、好きな場所で音楽を楽しむことができるようになりました。

SDカードがそのまま読み込めるメモリプレイヤーがあれば場所を選ばずに楽しめる

デジタルFMチューナーからの音をそのままデジタル記録し、好みのDACで楽しんだり、記録されたSDカードを持ち出して好きな場所で聴いたりできるようになりました。さらに、記録された音楽データはコンピューターから見れば一つのファイルにすぎませんので、ファイルサーバーにコピーしておけば、どこからでも簡単に再生することができますし、SDカードを空けて再利用することもできます。まさにオーディオがデジタルになって、コンピューターと融合したことになります。


ラジオサーバーを設置していつでもどこでもラジオが実現


 テレビ放送が完全デジタルになり、複数の放送番組を同時にハードディスクに録画して、好きな時に好きな番組を見るという楽しみ方が生まれました。ラジオについても同様の楽しみ方ができる時代が来ました。しかも、格安の機器で手軽に実現できます。Linuxを実用的な速度で動かすことができる小型コンピューターのRaspberryPiが普及し始め、5千円程度で手に入れられるようになりました。これにVolumioというソフトを導入すれば簡単にネットワーク音楽プレイヤーができることがわかりました。Volumioが持つ共有フォルダーに音楽データを入れておけば、他のVolumioやパソコンなどからアクセスもできます。

5千円ほどで手に入るRaspberryPi

さらに、ラジオ番組をタイマー録音するプラグインなどもありました。これらを組み合わせれば、よく聞くラジオ番組を自動で録音し、データを共有フォルダーに溜め込んでいくラジオサーバーもできるはずです。番組を聴きたい場合は、家庭内のLAN経由で共有ホルダーにアクセスし、適当なプレイヤーソフトで再生するだけです。いつでもどこでも好きな番組を楽しむことができます。

一台のRaspberryPiをラジオサーバーにして好きな番組をどんどん録音

フリーで使えるソフトだけで完成しそうでしたが、Linuxについての知識が不足していましたので、日本で現在サービス中のネットラジオ「らじるらじる」と「radiko」が初めからセットアップされているホームラジオというシェアウェアを利用しました。1,500円の料金が必要ですが、以下の機能を自分でセットアップする手間を考えれば十分リーズナブルだと思います。


  • 好きな放送を番組表から録音予約したり、キーワードを指定して自動録音可能
  • 使用するインターネットの帯域とCPU能力が許す限り、複数の放送を同時録音可能
  • 録音したデータはファイルサーバーに格納され、他の機器からアクセス可能
  • データ形式はそのままのflv形式か、汎用性のあるmp3形式を選択可能


実際のファイルサーバーは、独立した機器を用意するのではなく、RaspberryPiのOSを入れたマイクロSDカードの余り部分を使用するか、差し込まれたUSBメモリーが使われます。クライアントとしてもう一台RaspberryPiを用意してVolumioを入れ、お気に入りのDACとアンプ・スピーカーを繋げば、立派なホームオーディオシステムの出来上がりです。iPhoneなどにflv形式の再生が可能なネットワークプレイヤーソフト(8playerなど)を入れておけば、家中どこにいても録音されたラジオ番組を楽しむことができます。

・意外にいい音を聞かせてくれるHE-AAC


 この仕組みで心配なのが、「らじるらじる」や「radiko」の音質でしょう。ネットラジオですから回線の速度が遅くても音切れしないよう、音声データを相当圧縮しています。48Kbpsの帯域しか使わないそうです。mp3コーデックだと48Kbpsの音楽などとても聴けたものではありませんが、使われているのはHE-AAC(High Efficiency - Advanced Audio Coding)技術です。ここでは詳しい説明は省きますが、mp3に比べて高品質を保ったままでより高い圧縮率が実現できるそうです。確かに48Kbpsの帯域しかない割に、結構な音を聞かせてくれます。2時間10分のN響定期演奏会を録音してみましたが、ファイルサイズはわずか49MBほどでした。このサイズであれば、27GB以上のスペースが残っているSDカードにもたっぷりとラジオ番組が録音できます。

・キーワード予約でどんどん録音


 NHK FMが不定期に放送するN響定期演奏会の生中継は、それこそCDなどでも聴けない貴重なFM放送ならではの番組です。今までは放送予定を知らずに、聞き逃すことが結構ありました。ホームラジオの予約キーワードを指定しておけば、番組表の中にキーワードが見つかったら勝手に録音してくれます。いつやるかわからない番組や、毎週決まって聞く番組をキーワード設定しておけば聞き逃すことがなくなります。普通のパソコンサーバーと違い、消費電力は1〜2W程度しかない超小型コンピューターですから、一ヶ月間動かしっ放しでも電気代は数十円程度でしょう。好きな番組をどんどん録音するために、動かし続けるホームラジオサーバーとしては最適なシステムだと思います。

「ホームラジオ」の予約キーワード指定画面

音質面には多少目をつぶっても、この便利さは一度味わったら癖になります。今後、インターネット放送の品質が向上していけば、そのうちFM放送が不要になる時代が来るかもしれません。少し寂しい気もしますが、それまではFMチューナーを大切に使い続けるつもりです。



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